「成長企業の資金繰りについて」

投稿者: Aegies 投稿日:

企業経営の土台として欠かせない「資金繰り」。とりわけスタートアップ企業や中小企業の経営者にとっては、最重要課題のひとつといっても過言ではありません。そこで今回お話を伺ったのは、スタートアップ北浜税理士事務所の吉川さん。事務所名が示す通り、起業支援のエキスパートです。資金調達、毎月の適切な資金繰り、さらには投資や節税の考え方について、わかりやすく解説いただきました。

スタートアップ企業にも無理なくできる、資金調達術

――スタートアップ企業・成長企業は資金調達に苦労する場合が多いと言われます。資金調達を行う上で考慮すべき主なポイントは何でしょうか?

吉川広崇氏(以下吉川):資金調達を行う上で重要となるのは、法人の場合は資本金、個人事業主の場合は自己資金の金額です。具体的にいえば、通帳に多くの現金が入っているほど、金融機関からの信用が高くなります。融資時に提出する事業計画も大事ですが、それ以上に「キャッシュを貯める力」そのものが経営者としての実績として見なされるわけです。仮に1,000万円の融資を受けるとして、50万円の貯金もできなかった人よりも、1,000万円の貯金ができた人が信用されるのは当然といえるでしょう。ちなみに、親族から借りるなどして貯金を増やしてもすぐ見破られてしまいます。

 開業前に、会社勤めなどをしながら資産をつくるのは難しいと思いますが、なるべく堅実に預金を増やし、直近数年の良好な推移を金融機関に示せるようにしましょう。現金以外では、信頼度・換金性が高い投資信託なども資金として高く評価されます。

――資金を調達する際に、優先すべき資金調達の方法や選択肢はありますか?

吉川:まだ信用の低いスタートアップ企業が融資を受ける際、いきなり都市銀行に相談してもなかなか応じてもらえません。そこで私がお勧めするのは、日本政策金融公庫です。これは中小企業・小規模事業者などを支援するための公的な機関であり、民間金融機関よりも手厚く起業家をサポートしてくれます。私も開業時に融資を受けました。他の金融機関とも併用できるので、信用金庫や信用組合などと同時に相談してみるのも良いでしょう。企業のステージが上がり、さらに多額な資金調達が必要になったら、地方銀行、都市銀行との取引も検討してください。

――調達した資金はどのように投資するのが良いのでしょうか。

吉川:金融機関から融資を受けたお金は、あくまで会社の運転資金のためのもの。基本的に、生命保険などを含む金融投資には使えないのでご注意ください。スタートアップ企業の場合、会社の運転資金に経営者の自己資金を投入するケースもありますが、融資を受けることで自己資金を使わずに済むようになるでしょう。この資金を金融投資に回せばよいのです。

キャッシュフロー管理の鉄則は「通帳残高を見ること」

――スタートアップ企業・成長企業が資金繰りの管理を行う上で、最も気を付けるべきことや、押さえておくべき手法を教えてください。

吉川:スタートアップ企業には経理専門の社員がおらず、経営者自身がキャッシュフローを管理するケースが少なくありません。そこで、基本的な資金繰り管理の手法としてお勧めしたいのが、「通帳の残高をこまめに見る」ということ。特に毎月末の残高の推移は、売上・支出と併せて必ず確認してください。月末の残高が増えていれば問題ありませんが、横ばいになっていたら黄信号。なぜなら毎月の支出とは別に、法人税、預かっている消費税、社員の税金・社会保険料など、年に1~2度まとめて支払わなくてはならない支出があるからです。

 したがって、毎月の残高は、最低でもこれらの支出を見越して増やしていかねばなりません。その他、業種によって仕入れのタイミングや金額が異なるため、それも考慮する必要があります。もちろん、人材や仕入れへの投資のため、一時的に残高が減少する時期もあるでしょう。預金の推移をしっかり把握しつつ、経営の攻めと守りのバランスを考えるのが大切です。

――予算策定やキャッシュフロー分析などに有効なツールや手法はありますか?

吉川:スタートアップ企業の場合、予算策定やキャッシュフロー分析のための特別なツールがなくても問題ありません。収支の記録はExcelなどの簡単なソフトがあれば十分です。また、会社を立ち上げたばかりの時期は予算策定が難しいものですが、融資を受ける際に作成した事業計画書の予算をベースにすればまず問題ないでしょう。2期目以降になれば、前期と比較しながら毎月の予算を作り、各部門の適切な支出額を模索していきます。高度な分析ツールは、本格的な成長フェーズに入ってから導入しても遅くありません。

節税よりも、成長に向けた貯蓄と投資が事業成功の秘訣

――スタートアップ企業・成長企業が適切な税務戦略を立てる際に考慮すべきポイントは何ですか?

吉川:まず押さえておきたいポイントは、決算が黒字の場合、事業年度の開始日から半年後に法人税の中間納付があるということです。最低でも、中間申告分と確定申告分の法人税が支払えるよう、資金を残しておきましょう。一方、成長に向けて投資を強化しているフェーズでは、決算が赤字となる場合もあります。赤字決算のときは法人税が発生しないため、納税のための貯蓄を考える必要がありません。「攻め」の時期と「守り」の時期とで、税務戦略を切り替えるわけです。

 また、黒字決算の場合でも、貯蓄を事業投資に回すことで法人税を抑えることが可能です。たとえば決算賞与を出すことで、従業員に利益を還元するのもそのひとつ。従業員の勤労意欲を高めるのに役立つというメリットもあります。

――税務において効果的な、金融資金の運用方法について教えてください。

吉川:金融投資で利益が出たときの税率は、個人よりも法人の方が高いため、個人の資金で投資をしたほうが有利です。個人の資金が不足している場合には、法人の資金で金融投資をすることもできますが、先ほど話した通り、金融機関から融資を受けた資金は投資に回さないよう気を付けましょう。融資を受けたことで生じた余剰分の法人資金で金融投資を行うのは問題ありません。

――効果的な節税のアプローチ手法を教えてください。

吉川:同じ経費でも、決算月に使った場合は年度内の経費として、翌月に使った場合には翌年度の経費として計算されます。そのため、決算月内に使った方が年度内の法人税を抑えるのに有利といえます。とはいえ、健全な成長を望むなら、あまり節税を重視するのも考えものでしょう。なぜなら節税のほとんどは結局「お金が減ること」だから。たとえば決算の前に慌てて新車を購入するといった奇妙な「節税」をする経営者がいますが、自動車は6年ほどかけて減価償却するため、ほとんど節税効果はありません。無駄なお金を使うよりキャッシュを貯めるほうが経営は安定しますし、しっかり納税している企業は金融機関からの評価も高いのです。実際、私のお客様を見ていても、節税にこだわることなく事業の成長を目指す経営者の方が成功しているようです。

――最後に、資金繰りに悩む起業家や経営者に、一言アドバイスをお願いします。

吉川:経理の専門知識がなくても、通帳の残高を毎月チェックするだけで資金繰りはかなり安定します。面倒でも、ぜひやってみてください。私自身、独立して間もない頃は資金繰りが心配でしたし、今もベンチャー経営者として奮闘しています。ぜひ、一緒に経営をがんばりましょう。

*プロフィール

スタートアップ北浜税理士事務所
代表 吉川 広崇
資産税に特化した税理士法人、税理士・弁護士・司法書士等との合同事務所、創業支援に特化した税理士法人の3社で幅広い経験を積んだのち、2019年1月に独立してスタートアップ北浜税理士事務所を開業。プレイングマネージャーとして多数のクライアントをサポートしている。スタートアップ企業の創業支援実績は特に豊富で、自らの起業経験を活かした実践的なアドバイスは評価が高い。

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